紀伊半島の環境保と地域持続性ネットワーク 紀伊・環境保全&持続性研究所
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「害虫防除の常識」   (目次へ)

3.害虫の発生状況の調査法と予測法

 5) 害虫の休眠 ---有効積算温度をいつから積算したらいいのか---

 昆虫(害虫)は変温動物なので、外部環境の温度によって体温が変化する。このため、冬の氷点下の気温では、体が凍りついて死んでしまうのではないかと思われるかもしれない。しかし、冬季の気温が低い温帯や寒帯地域に生息する昆虫は、越冬休眠という生理的状態になって、体が凍らないようにする物質が体内で作られ、翌春まで生き延びることができる。例えば、老熟幼虫で越冬するニカメイガ(イネの害虫)は、越冬休眠状態では耐凍性物質であるグリセロールが体内で生成され、細胞内に浸潤し凍結を免れている。

 一方、ヨトウガは、暑い夏を休眠状態の (さなぎ)になって土中で過ごすが、これは 夏眠 (かみん) といわれる。イネミズゾウムシは、真夏の7月下旬頃から新成虫が羽化を始めるが、じきに越冬場所に移動して土の中などに潜り込んで暑い夏を過ごし、そのまま翌春まで休眠状態で過ごすが、これは、夏眠から越冬休眠へと休眠状態が継続する例と言える。ナナホシテントウ、ナミテントウの成虫は、餌のアブラムシが少ない夏期に一時的に夏眠し、越夏後に再度活動した後、晩秋になると成虫で越冬休眠する。

 休眠状態の特徴としては、一定の発育段階で発育が停止するということである。休眠状態に入ると、発育零点以上の温度があっても発育は停止したままであるか、あるいは遅延する。また、越冬休眠に入った後に、低温(例えば5℃以下)に一定期間遭遇すると、休眠状態が解消される(休眠 覚醒 (かくせい) と言われる)。休眠覚醒した後で発育零点以上の温度になれば、いつでも発育が始まる。

 昆虫が越冬休眠する発育段階については、イネミズゾウムシ、多くのカメムシ類、テントウムシ類などでは成虫で休眠し、休眠に入ると摂食 (せっしょく) を止め、卵巣発育を停止する。大豆害虫のシロイチモジマダラメイガやイネ害虫のニカメイガは老熟幼虫で、モンシロチョウ、アメリカシロヒトリは蛹で、イラガ、チャドクガは卵で、ダイズサヤタマバエは1齢幼虫と、昆虫の種類によって、それぞれ一定の発育段階で休眠越冬する。しかし、ヒメトビウンカ、ツマグロヨコバイやコガネムシ類は、幼虫で休眠越冬するが、複数の幼虫齢期で休眠しており、休眠覚醒する前に発育零点以上の温度をかけると発育遅延を起こす。

 近年、施設栽培が盛んとなり、冬期に加温され、寄主植物が存在する環境ができたことで、非休眠性の害虫でも越冬できるようになった。1970年代以降、海外からの侵入害虫が増加したが、この中には、ミナミキイロアザミウマ、マメハモグリバエ、タバココナジラミ類などの非休眠性の微小害虫がいる。

 それでは、春から初夏にかけて害虫が発生してくる時期を予測する場合に、いつ頃から有効温量を積算したらよいのだろうか。答えは、休眠性害虫については、休眠覚醒した時期から積算すればよいということになる。多くの休眠性害虫は、1月には休眠覚醒しているので、1月以降で発育零点を超える気温が観測される時期(紀伊半島では概ね3月以降)から積算すればよいということになる。 


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